プライベート 教育分野

地方議員とPTA役員を兼務することにかかわる一議論

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議論のきっかけ

身近なところでこのような議論がありましたので、改めてPTAにかかわる問題を考えるきっかけになればと思い、個人的に(会社等の立場は関係なく)考えた際のメモをまとめました。

上の子を小学校に入れた際、PTAの事実上の強制加入の状況には違和感を感じたものの、当時は入学式の式次第に続き鉛筆も配られてPTAの入会申込書を書くというプロセスに何も考えずにのりました。誤解がないように言えばPTAの活動自体を何ら否定しているものではなく、またPTAの方の日々の活動は限りある時間の中からボランタリーな活動に割いておられること、またそのご苦労が多いことも十分に承知しています。

ただ、夫婦共働きの方が多いという現状下、果たして今までのPTAのかたちでよいのかと考えているうち、たまたま掲題のような事案を見るに至りました。「政治活動」と「選挙の事前運動」の違いの理解が必ずしもなされていないことに気づき、またそもそも人選が決して容易な状況ではない中、事情は法令に違反しない限り個別に判断され得るものではないかと考えています。

以下に書く背景としては、

  • PTA(いわゆる単位PTA)の副会長に推薦するプロセスに乗った保護者の方が、現職の区議会議員(無所属)であった。
  • 昨今の都市部のPTAの状況のとおり、積極的にPTAの役職を引き受けていただける候補者が多い状況ではなく、人選は難航した。
  • 現職の区議会議員がPTAの副会長になることについて、「望ましくない」「懸念の声がある」との声が出たが、その具体的な根拠が示されなかった。

などのようなものがあります。

今回、私は一個人として選考プロセスの過程の参考となるよう意見書を提出しました(以下のメモは意見書の原文とは異なり、blog用に加工・加筆してあります)。なお、手元で調べる限り、現職地方議員とPTAの会長・副会長などの職務を兼務されている方は何例か見ることもできました。PTAという活動を取り巻く様々な課題だけでなく、昨今意見が出始めている地方議員の職業化の論点からも、今後の議論のきっかけになればと思います。

背景の理解

  • 現職の区議会議員(本件においては特別区の区議会議員。以下「被推薦者」)が、公立小学校における単位PTA(以下「PTA」という。)の役員(本件においては副会長。)を兼務することに、何らかの法的またはPTAの存在から検討すべき点があるかについて議論の必要性が発生した。
  • PTAの役員候補者を推薦するにあたり、現執行部などから「被推薦者が現職の区議会議員である」ことに懸念が発せられ、当該被推薦者を次年度の役員として推薦することにつき、見送るよう判断した。(なお、役員の選出にあたっては立候補によるものと推薦によるものがあるが、実務上には自発的な立候補者がみられないことから、推薦委員によって推薦された被推薦者への信任投票として行われることが多い。)
  • 単位PTAは、民法上の権利能力なき社団(任意団体)と解される。
  • 法令面において主として検討すべきものには、公職選挙法、地方自治法、およびPTA・青少年教育団体共済法等が挙げられる。このほか、当該特別区の条例においても網羅的に検討する必要がある。
  • 本件においては、単位PTA(公立小学校において組織される保護者および教員を会員とした組織)を対象とした検討に限る。いわゆるP連などついては議論しない。
  • 被推薦者とPTA、および区議会との間の利益相反を検討するためには、当該区において、当該PTAまたは当該PTAを構成員とする区立小学校PTA連合会との関係性を理解する必要がある。
  • 被推薦者は、検討の対象とする当該PTAに入会した保護者であることを前提とする。

主な論点

本件においては、被推薦者の意向が確認できている前提をおいた上で、発せられた「懸念」が、法令だけでなく、PTAの活動の趣旨と照らし合わせた課題が生じていないかなどについてみるべきであり、主として以下の4点が検討されるべき論点であると考えられる。

  1. PTAでの役員としての活動が公職選挙法上の「選挙の事前運動」と判断されうるか。
  2. PTAでの役員としての活動が政治活動の一環と解される懸念の有無。
  3. PTAの役員であることが、区立小学校PTA連合会へ補助金を支出する区(教育委員会)の立場との利益相反または兼職禁止等への抵触とみなされる可能性の有無。
  4. 単位PTAの役員に候補者として推薦されることは、本人が推薦されることに受諾の意思があるにもかかわらず、現職区議会議員であることによってのみ、かかる推薦の候補から除外することは適切であるのか。(即ち、一保護者として同列にPTA会員である者に対して、妥当な取り扱いであるか。)

各項目の検討

本項では、前項に掲げた4点の論点について個別に複数の観点から検討を行うものとする。

3-1. 公職選挙法上の「選挙の事前活動」との関係
 公職選挙法は、選挙期間(届出から選挙の前日まで)以外の選挙運動を禁じており(公職選挙法第129条)、一方で、一般的な政治活動を行うことについては禁止していない。選挙運動とは、文書図画(いわゆるビラ)の掲示や演説等を指すものであり、被推薦者が現職区議会議員であること自体のみをもっていて当該被推薦者の全ての活動が選挙運動または政治活動であるとする考えに合理性は無いと考えられる。
 さらに、PTAの活動の有無に限らず、当該被推薦者は公職選挙法に違反する行動について当然に禁止される一方、PTAの役員への就任が公職選挙法に違反すると認められるとする規定または合理的な理由は見当たらない。なお、本件事案は被推薦者が現職者であるが、将来立候補を予定または計画している人物の場合、元職(いわゆる落選して現在は議員でない者)等の人物の場合も同様と考えられる。

3-2. PTAが政治活動の一環と解されることへの懸念
 単位PTAは、その会員を保護者と教員としており、入会する保護者、及び役員の候補者となることの欠格事由を規程等では定めていない(当該事例においてに限り、他の事例は把握できていない)。また、PTA・青少年教育団体共済法に規定する構成員の定義(同法第2条)ならびに学校教育法第16条に定める保護者の定義においても定めはない。
 次に、被推薦者が役員の候補者となり、かつ役員として選出された場合、この者が現職区議会議員であることのみをもってして、PTAの役員に就任することが政治活動とされるかについて検討する。
 政治活動とは、「政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者を推薦」する活動等を指す(公職選挙法)。現職区議会議員がPTAの役員としての会議または活動の時間内に、政治活動、後援会活動またはこれらに類する活動を行うことは、PTAの規程に定められると否とを問わず、社会通念上、PTAの目的を逸脱するものとして認めらないと考えられる。一方、現職区議会議員がPTAの目的の範囲内で活動することは、役員であると否とを問わず、即座にこれらがすべて政治活動であるの指摘はあたらない。
 なお、「PTAの活動が政治活動に利用されるのではないか」との懸念にあたっては、これをもって被推薦者の立候補を取り下げるようとするものであるならば、政治活動とは現職者、将来立候補を予定または計画している人物、元職などを問わないことから、本人に対してPTAの役員としての会議または活動の時間内に政治活動を行わないことを確認するのみで足るものであるはずである。
 あえてPTAが一切の政治活動に対する懸念を排除しようとするならば、地方議会の現職議員のみならず、政党に属する人物、元職、将来立候補を予定または計画している人物などを全て候補者としないとする試みは考えられるが、現実的には「PTA会長」「PTA副会長」等の経歴を掲げた地方議員は極めて多く存在しているほか、憲法第21条に反する行為とも捉えられかねず、合理性のある姿勢ではないと考える。

3-3. 利益相反・兼職禁止等への抵触等への懸念
 現職区議会議員である被推薦者が役員の候補者となり、かつ役員として選出された場合、この者がPTAの役員であることが、区(または教育委員会)の立場との利益相反とみなされる可能性の有無について検討する。
 PTAと区、または教育委員会の間には、直接の利益相反関係が生じる金銭等の経済的関係は存在しない。ただし、単位PTAが構成員となる区立小学校PTA連合会へは、教育委員会が補助金を支出している。
 区立小学校PTA連合会への補助金支出は、当該区においては教育委員会に設置される社会教育委員(同区社会教育委員の設置に関する条例)に諮問し、教育委員会の決議によって行われている(最新は、平成27年6月2日開催の当該区の教育委員会定例会議事録)。
 一方、教育委員は、区長が区議会の同意を得て任命する。また社会教育委員は教育委員会が委嘱する。なお、区立小学校は教育委員会の下に置かれる。
 上述のとおり教育委員の任命権は区長である一方、特別区において区長は区議会議員と同様に直接選挙制度を採用しており、区議会選挙とは別に行われる。したがって、一人の区議会議員が教育委員会または社会教育委員の決定に関与し、または利益相反関係にあると認められる合理的な理由は存在しない。
 なお、公職選挙法第92条、同条2項、ならびに地方教育行政の組織及び運営に関する法律第6条に定める兼職の禁止、または兼業の禁止には、本件は該当しないと考えられる。

3-4. 候補者の推薦から取り下げる行為の妥当性
 本項では、PTAの役員に候補者として推薦されることにつき、本人が推薦されることに受諾の意思があるにもかかわらず「現職区議会議員であること」によってのみ、かかる推薦の候補から除外することは対応として適切であるのについて検討する。
 第一に、地方議会の議員は特別職の地方公務員(地方公務員法第3条第3項)であり、職である一方、上述の行為は特定の職に就くものをPTAの役員の候補者として推薦しないものと捉えられかねない。
 第二に、PTAに入会した保護者である以上、推薦の有無を問わず、役員への立候補を妨げるものではない。PTAにおいて、保護者としての立場は同一である一方、本人が被推薦者となること及び候補者として選出された場合には就任する意思があるにもかかわらず、他の合理的な理由(PTA活動にふさわしくない発言・態度が日常的にみられる、または明らかにPTA活動に参加する時間を取ることができないとみられる等)がないまま、職を理由とすることは、明らかに説明が不足しており、妥当性のある判断であるとはみられない。

まとめ

 上記の4点から検討したとおり、現職区議会議員であることを理由にPTA役員の候補者の推薦を取り下げる行為に法令およびその他の合理的な理由は見当たらない。さらに、推薦だけではなく立候補によるプロセスを有している一方、実質的に立候補者がいない現状においては、推薦に頼らざるをえない現状を踏まえた対応が必要であるとも考える。仮に被推薦者候補から特定の職を有するものについて除外すること(この行為の妥当性は除く)を行うのであれば、推薦のプロセスの前に決定し、これを周知する必要があると考えられ、プロセスにおいては二重の課題が見られる。
 なお、政治活動とPTA活動の距離を保ちたいとする意見に対しては、(落選中または将来の立候補を計画している者を含まず)現職者だけを除外するための積極的な理由は見当たらない。

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