オピニオン: 資格外活動許可下における複数のアルバイト先での時間管理

複数のアルバイト先での28時間ルール超過時の企業側の責任

今回は、入管法第19条での「28時間ルール」に関連し、外国人留学生が複数のアルバイト先で勤務する際の勤務時間超過問題について、法が雇用主の責任を求めるならば何らか雇用主に対して把握方法を提供するべきではないかとの点を照準とした一意見を書くことにします。不法就労助長罪についてはオーバーステイや風俗業絡みの判例が中心で、今回指摘したい「資格外活動許可を得ている外国人留学生が2以上のアルバイト先で勤務していたが、この勤務時間は合計すると恒常的に28時間を超過していた」ことにつき、これだけを取り上げて雇用主側の責任を追及した判例は見当たりません。(収録されていないだけだというご指摘があればぜひお願いいたします。あて先は kentaro [at] iemoto.com です。)

しかしわが国の実態はまさにこれです。28時間ルールを十分に理解している雇用主・外国人留学生が多くいることも承知していますが、他方でアルバイトの掛け持ちによって28時間ルールがうやむやになっているケースも多くあります。なぜならば、外国人留学生本人から勤務時間について積極的に申告を得ない限り、雇用主側に把握する手段が存在しないためです。また雇用主側が真実性を確認する手段も存在しません。

外国人留学生をさらに増やしていきたいとする30万人計画の存在(あの計画の着地と評価をどうするかは別としても)と同時に、働き手として一定程度外国人留学生に依存している現場もある中、28時間ルールの本質である「留学は勉学が本分」という趣旨については何ら反対しません。また不法就労助長罪の存在に対する批判もありません。ましてや、複数先での28時間ルールの超過により雇用主側が摘発される事案は無いのだから「ルールは無視してよい」というつもりもありません。一方で、国費留学生は原則NGがあるため別だとしても、留学での生計を維持するためにアルバイトをする必要があったり、アルバイトをすること自体で日本で学ぶことにプラスになったりする点も当然あります。よって私自身は資格外活動許可の制度をもつわが国の制度自体に対しては評価をしています。

ところが、いざアルバイトで働く際、この28時間は複数先での合算であることについての理解は高いといえません。働き始める際にはパスポートや資格外活動許可証の確認、本人からの(就業開始時に他のアルバイト先の有無について)聞き取りをするにしても、それが適切であったと後から立証するのは容易ではありませんし、勤務時間など変動して当然。よって、雇用主側に対して勤務時間を登録・照会する何らかの手段を用意するなど、雇用主側の「努力」に依存しない手段の提供を期待するものです。

なお、これらの目的は「正しく日本でアルバイトをする外国人留学生」と「正しく外国人留学生を雇う雇用主」がバカを見ないようにすることである点は、当然ながらも添えておきます。

入管法における資格外活動許可

入管法は、外国人留学生が日本でアルバイト等を行う場合に資格外活動許可を得ることを義務付け、さらに資格外活動は原則として週28時間以内(いわゆる夏休み等は1日8時間以内)としています(入管法第19条)。この際、既出のとおり勤務時間の制限は複数先で合算です。

どのように一般に周知されているかについて調べてみると、例えばここ東京都では「外国人在留マニュアル」が発行されており、英語以外に11の言語で同一の内容が作られています。そしてこのマニュアルには「合算ですよ」と明文化されています。

東京都の発行する「外国人在留マニュアル」

週28時間の制限は合算であることが明記されているものの…。

ただし、雇用主を指定する個別許可として「(1)活動の目的が本邦留学中の学費等の必要経費を補うものであること,(2)申請に係る活動が語学教師,通訳,翻訳,家庭教師等,申請者の専攻科目と密接な関係のある職種又は社会通念上学生が通常行っているアルバイトの範囲内にある職種であること」(国家戦略特区等提案検討要請回答より)が認められる場合には28時間ルールを超える許可を行うことがあるとしています。すなわち、全てが28時間ルールであるわけではありません。もっとも、一般的に企業や店舗等でのアルバイトの場合には包括許可での28時間ルール以外を見ることはほぼないでしょう。

28時間を超過しているかはどのように把握できるのか

ところが、冒頭に書いたように、雇用主は「複数でアルバイトをしているのか」「その合計が週28時間を超過してるいのか」を把握する手段がありません。また勤務時間の実態を入管等に報告する義務もありません。よって入管に電話して「この人は複数でアルバイトをしていますか」と聞いても(おそらく)わかりません。

以前の私のblogでも、本人の申告以外に28時間オーバーを把握する手段が無いことを書きました。また、今まで17-18年ほど外国籍従業員と一緒に働きた中では正社員以外にアルバイト・インターンの存在も多くいましたが、一度も28時間ルールについて「超えています」と言われたことはありませんでした。(違法なブローカーの存在を感じさせるオーバーステイ

本人に「28時間を超えることはできませんよ。ただし夏休み等は別です。」「複数での合計ですよ。」という注意はできます。します。しかし、継続的にフォローすることは困難ですし、真実性を確認する方法はありません。毎月、報させますか・しますか、という話です。

外国人の日本での就労時の報告制度

では、外国人が日本で就労する場合にはどのような報告制度があるのでしょうか。実は大きく分けて二つあります。一つは入管法による届出、もう一つは雇用対策法による届出です。わかり難いのですが、ハローワークに届出が義務付けられている者、すなわち企業等の事業主は雇用対策法での外国人雇用状況届出を行えということになっています。一方、その対象ではない、たとえば学術機関等での雇用の場合には入管に届け出ろということになっています。よってどちらか、です。

努力義務である入管法の受入・企業側の登録

このうち入管法では、中長期在留者の関係先(受け入れた企業などの雇用主。労働関係に限らない。)は外国人の受入れの開始・終了時点で届け出を行うこととされています(入管法第19条の16及び17)。ただし雇用主に対しては努力義務、です。また資格外活動許可の包括許可によるアルバイト先については対象ではありません。アルバイトについてはハローワークで届け出ることになっているからです(建てつけ上)。

なお2013年から「入国管理局電子届出システム」が稼動しており紙での報告ではなくなっていますが、届出されている数と対象の在留許可数の差はどの程度なのかを知りたいところです。この統計は見当たりませんでした。

雇用対策法での外国人雇用状況届出は義務化されているが…

一方、厚生労働省所管の雇用対策法では、2007年10月の改正で外国人雇用状況の届出が義務化されています。こちらは義務で罰則規定も存在します。全ての雇用主に対して採用時と退職時に報告しろということになっており、留学生が行うアルバイトも対象であると明確化されています。正採用の場合には雇用保険の被保険者とることでいずれにしても把握ができるわけですが、雇用保険の被保険者とならない外国人の場合に対しては外国人雇用状況届出書を所轄のハローワークに出すことが義務付けられているのです(雇用対策法第28条第1項及び附則第2条第1項)。

法務省と厚生労働省とそれぞれ所管が異なりますが、とにかく企業等の事業主の場合にはまずは雇用対策法での届出を行え、これは行わなければ罰則があるぞ、とし、対象ではない職種の人には入管の仕組みで届出をしてね、しかしこちらは努力義務、ということになります。もっとも、全ての事業主が届け出ているかは不明です。特に正採用ではなく、かつ雇用保険の対象ではない場合、相当数が抜け落ちている可能性があります。在留許可数との乖離は改めて調べてみることにします。

いずれにしても、雇用保険の被保険者とならないケースでどの程度届出がなされているのでしょうか。

逸脱方法はいくらでもある中、どうすればよいのか

わが国における留学生に対する「週28時間ルール」は、たとえばアメリカへの留学生の状況からするとルール上は緩めであるともいえます。包括許可ですから禁止業種以外はどこでも働くことができるわけです。

しかしその厳しいアメリカでさえも、あるいはその他の国であったとしても、さらに日本であったとしても、逸脱方法はいくらでも存在します。たとえば日本では、現金手渡し、単価書き換え(8時間働いても短く働いたことにし、しかし時間給を上げる)、複数先での勤務を意図的に把握しない、などです。似たような話はどこの国にいってもあります。アメリカでの留学中のアルバイトについて検索してみると、キャンパス内の20時間以内の労働(日本でも大学でTA・RA・SAをすることは除外)を紹介するページもあるものの、似たようにスレスレ or アウトの話を紹介しているページも多く見つかります。

そのような中でたとえば雇用主に「外国人のアルバイトを雇ったらパスポート情報と一ヶ月あたりの勤務時間を申告してね」とシステム化をしたところで、誰がまじめにやるのでしょう。コンプライアンスにうるさい日本の大企業であったとしても、フランチャイズの先の店舗の状況を細かく把握できているとは思えません。かといって、雇用主側の管理義務を無くすわけにはいきません。おそらく、入管法第19条の企業側のジレンマはこのあたりがポイントです。

結局、このままではザルになる。

さて、そろそろ結論に行き着く必要があります。

ここまで見た中では、届出義務は「その人が働きはじめたか、辞めたか」です。勤務時間は管理されていません。ましてやアルバイトの場合には雇用保険との兼ね合いでさらに不透明です。雇用主からすれば不法就労助長罪への抵触を回避するために旅券や在留資格、在留カードの確認などを怠らないようにし、かつ「あなたは複数先で合計28時間以上は働くことはできませんよ」と伝えればここまでで終わりです。仮に知ってしまった場合にはいずれかの勤務時間を減らすよう努力すべきですが、雇用主が出来ることは現実的にここまでです。

冒頭に書いたように、ただでさえアルバイトの働き手確保も厳しい時代です。28時間枠を拡大するのは「勉学が本分」という点から外れるため無いとして、逆に合計28時間ルールを1雇用主あたり21時間ルール(7h x 3days)とし、その管理を厳格化するのはどうかとの意見も近くではありましたが私は反対です。そうすると21時間を超えて働きたい留学生は掛け持ちをするだけです。

他方で、「外国人を雇ったら毎月勤務時間を報告せよ。報告していない状況を見つけたらペナルティ(次の雇用ができなくなるなど)を課す。臨検も頻繁にする。」といった厳格型管理手法も行政効率は高くありません。あまり言いたくはありませんが、国全体としてもこの労働市場環境で「合計週28時間ルール」の厳格運用が果たして出来るのかが疑問です。働き方改革では労働時間の話がここまで注目されましたが、「留学生」の「働き方」についてはメスが入る様相はないままです

在留カードにデータは書き込めるのか

ところで、外国籍の方が日本に3ヶ月以上滞在する場合には必ず在留カードを持っていることになっています。そしてこの在留カードのICチップに含まれているデータ仕様は公開されています。従って包括許可の有無以外に包括許可による雇用の有無について在留カードに書き込むことが出来れば雇用主の有無や雇用主情報を持つことができ、活用できる可能性があるのではないかと考えました。

よってデータの仕様を確認しましたが、包括許可または個別許可の有無については含まれているものの、現に雇用されているかどうかの情報を格納するファイル構造は確認出来ませんでした。ICに載っている情報の合計バイト数は手元で計算すると12,070byteのため、データの空き容量からすれば技術的には不可能ではなさそうです。もっとも、読み取りは出来ても書き込みを一般に何らか許可させられるか、そしてカードリーダーではなくライターを広く配布できるかというとこの案はあまり現実的ではありません。カード単体で対応することは今のところは難しそうです。

在留カード等読取り仕様書(一般公開用)

私の提案は「他の雇用主の有無を照会できる」システム

この上で、私個人の意見としては、(統計上およそ21万人いるとされる)資格外活動許可によるアルバイトに対しては、在留カードの番号をもとにして雇用主が外国人雇用状況届出書により雇入れ・離職について届けた情報を第三者の雇用主が照会できる仕組みを設けるべきであると考えています。在留カードの番号の検索によって他の雇用主が重なっていないかを把握できればよいでしょう(システム上の表示はありなしでよい)。そして雇用保険の被保険者であれば除外しても差し支えないわけですから、対象者はこのように限定することができます。雇用対策法の改正等によらずとも実現できる可能性があると考えます。

毎月勤務時間を登録しろとすることは現実的ではありません。しかし、他の雇用主が、目の前のアルバイト候補者を現に雇っているかどうかが把握できるだけでも、合計週28時間ルールに抵触する可能性があるかを一次的に確認することができます。今はこれが無いために本人の自己申告に拠っているのです。複数でアルバイトをしていてもよいのです。ただし、複数でアルバイトをしている場合には雇用主は注意を促すことができ、また行政側は届出前の照会の有無についても把握できます。個人情報保護の観点や趣旨からすれば、姓名等についての情報を確認する必要はなく(旅券でよい)、あくまで他の雇用主の有無に絞ることにこの提案の意義があります。

私の提案は以下の図のとおりです。図では簡略化するため2社めで照会していますが、そもそも外国人留学生のアルバイトを採用する場合には照会することを義務付け、資格外活動許可の有効性の確認と共に、他の雇用主の有無を確認ができるだけでも「うちの会社だけで週28時間を使い切るわけではない可能性があるから注意しなければいけないな」となると考えます。

資格外活動許可の照会システムの私案です。

資格外活動許可の照会システム(私案)。番号入力で現雇用先の有無が確認できるだけでも注意喚起の効果がある可能性。

週28時間ルールでさえ守っていない雇用主がいるのに届出などするか! との批判があれば、それはそのとおりです。しかし、正しく雇いたいと考えている企業にとって何ら手段が用意されないままであることは困ります。雇用主が責任を負うべき体制にするためにも、留学生のアルバイトの働き方を守るためにも、また留学の実態がない留学生に対して適切な対応をとるためにも、です。不透明な届出は検査すればよく、あくまで性善説によるべきで、働く現場が容易に届けられる仕組みを確保することが求められます。