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「ICP登録」制度の現状に関する意見

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はじめに

中国国内で開設される全てのWebサイトは、インターネット情報サービス管理弁法 (互联网信息服务管理办法)に基づく「ICP登録(中国語では备案)」制度により、全てのWebサイトは当局に登録申請を行うことが義務付けられています。日本では、良く似た単語である「ICPライセンス」と混同されているケースもありますがこれらは別物で、ICP登録は「Webサイトの登録」、ICPライセンスは「インターネットを通じて営利目的のサービスを提供する際に義務付けられている許可証」です。「ICPについて教えてほしい」とお尋ねいただくケースも多くありますが、その際には「登録ですか?ライセンスですか?」とは聞き返すことはせず、「コーポレートサイトなどを開設されるのですか? それともECサイトやSaaSなどのサービスを始められるのですか?」とお伺いするようにしています。一部に適切な理解の無いまま記載されている文献等があるため、このような混同が残ってしまっているようです。

ところで、この稿ではICP登録が何か、もしくはその是非をテーマにしたいのではありません。最近、中国のICP登録の仕組みについて、当初の想定と大きき変化し、仕組み自体が限界に至りつつあるのではないかと考えることが度々ありました。今回はこれについて検討したいと考えています。具体的なきっかけとなるケースはいくつかありますが、主だったケースと問題点を挙げると、以下のとおりです。

主な問題点

  1. 【問題1: 複数のIDCを使うという想定がない】
    ICP登録は、契約しているIDC/ISP事業者を通じて通信管理局に申請を行うことになっている。顧客が契約している事業者とは、制度上、1社であることを想定している。www.example.cnというドメインをA社というIDCでホスティングしているのであればA社を通じて申請すれば良いが、www.example.cn というドメインはGSLB・DNSラウンドロビン等によって中国の複数のIDC(例:A社、B社、C社)に分散されている場合、ICP登録を複数のIDC事業者経由で行うことは制度上想定されていない。分散処理されている場合には「主たる」とするIDCも明確ではない場合もある。
    このような場合にA社経由でICP登録を申請したにも関わらず、B社とC社は「当社のIDCでWebサイトを開設するならば、当社を通じてICP登録をしている必要がある。」といって、サイト開設を拒むケースがある。なぜならば、通信管理局から怒られるのはまずそのIDC事業者であるためで、難しい問題に対応したくない/できない事業者は窓口レベルで断ってくる(このケースは実際にある)。しかし、ICP登録番号は企業に紐づいており、その申請は顧客はこのケースにおいてはA社を通じて行っているため、そもそもB社とC社を経由して申請することは出来ない。既にA社経由で申請していることをもって「問題ない」とする事業者もいるものの、現場では融通がきかないことが多い。
  2. 【問題2:中国国内のIDC事業者による海外のIDCを使ったサービスを中国国内の顧客に対して行うケースへの対応が想定されていない】
    ICP登録は「中国国内にサーバを置いている場合に限り」適用される。台湾・香港は含まれていない。近年、中国と台湾とのインターネットの接続性は良好になりつつあるし、香港は従来から中国とのゲートウェイであることは皆知っていること。しかし、ここにきてついに阿里雲(Aliyun)が香港のデータセンタを用いたサービスを開始することを発表。香港のデータセンタを使う場合、制度上はICP登録はいらない。しかしICP登録を「香港におけば要らない」と気づくユーザが増えることも問題(実際には皆わかっているが、阿里雲のような中国の大手の事業者が香港にノードを置くというのは初めてのケース)。一方、香港側からすると中国の制度を受けいれる可能性は低い(一国二制度)。阿里雲は、中国国内のユーザが香港のデータセンタを使う時、どのようにするのか。
  3. 【問題3: ICP登録を行うドメイン名は中国国内のレジストラで取得されている必要があるとの要件の不合理性】
    gTLDの運用に対する柔軟性が低い。2013年からは、gTLD(.comや.netなどのドメイン名)については中国国内のレジストラで取得したものでなければ受け付けないというルールに変更されている。ドメイン名証明書を出せば良いとする事業者もあるものの、原則としては不可(ルール上が不可であり、認めるケースの方が例外)。実際のケースではこのようなこともある。Webサイトを開設したいD社はドメイン名を海外のレジストラで取得した。このドメインでICP登録を使用としたところ、中国のレジストラに移せと言われる。しかし取得後の一定期間は他のレジストラに移管は出来ないため、結局身動きがとれないというもの。中国国内のレジストラであることを求めることにより、ドメインの所有者が確認できる(裏が取れる・管理強化の目的)状態にしているものと推測される。
  4. 【問題4: 海外で運用中のドメインについて、GSLB等を用いて中国国内で利用することを想定していない】
    問題1及び問題3と関連する。「海外のクラウド/IDC等で既に運用済みのドメインを、GSLB等を用いて中国国内からのアクセスについては中国国内のサーバから配信する」場合、「既に運用済みのドメイン名ではICP登録は申請できない。」との指摘を受けることがある。簡潔に説明すると、ICP登録の受付システムでは自動的に申請ドメイン名のAレコードを引いている模様で、これが引けてしまうと「運用されているドメイン」とみなされている模様。しかしそれが中国国内であれば確かに違法である可能性があるものの、海外であれば関係のない話。結局、個別にこの状況を説明する必要がある。
  5. 【問題5: ICP登録の活用範囲が当初想定から変化している】
    ICP登録をしていることを「問題の無いサイト」の要素の一つとする仕組みも出てきている。例えば「安全連盟」(公安部が指導単位)。海外のサイトはもともとICP登録の対象ではないし、海外から登録をすることも当然に出来ないわけで、仮に簡体字のコンテンツであったとしても、Webサイトの開設者は対処する術がない。しかし「ブラックリスト」に載ってしまうと、中国の検索エンジンで警告が出ることもあり、Webサイトの開設者としては問題となる。但し、これはICP登録の問題というよりも、ICP登録をWebサイトの認証手段の一つとして用いていることの問題ともいえる。
  6. 【問題6: 認証の仕組みの古さ】
    企業がICP登録をした際に通信管理局から発行されるパスワード情報は、予め連絡先を登録した担当者に短信(SMS)で届く。しかしこのパスワードが無いと、その後の情報変更を行うことが一切できない(紛失した場合には印鑑を押して通信管理局に再発行手続きが必要)。短信で送る理由は、携帯電話番号の認証という要素もあると考えられるが、退職・転職の多い中国で、個人にのみパスワードを送ることは、後から問題が起きることが多い。

ICP登録の必要性

一方、ICP登録を行わせることにより、当局は、「中国国内で開設されているWebサイトを把握する手段がある(クロールしているので、登録していないIPアドレスで80番のポートが空いていれば見つかるようになっている)」、「Webサイトの開設者への連絡手段を確保できるため、違法なコンテンツへの対処が容易になる」などの利点があります。また、インターネットのコンテンツに関する検閲を行うことについては各国の政治体制等によるものでもあり、これについてこのblogで外部から論じる必要性は無いと考えています。いずれにしても中国の電信条例は「何か違法なコンテンツがあれば通報しろ」と通信事業者に課していますし(電気通信条例第63条)、中国のインターネットの発展状況等を考慮すると、管理制度としてのICP登録の存在については否定しません。

提案意見

  1. 大規模なアクセスに対応し、かつ可用性を意識したWebサーバの構成は中国でも増えてきています。具体的には、IDC間をまたぐ分散処理(例としてGSLB、DNSラウンドロビン)を採用するケースのように、「このWebサイトはどのIPアドレスであるか、どのIDCで運用されているか」が一対一で紐づかないWebサイトも多く存在します。ICP登録の手続きをIDC/ISP経由とする、との点を確保するならば、複数のIDC/ISPにまたがることも想定した申請手続き内容に変更することが望ましいと考えられます。
  2. 上述したように、海外のレジストラで取得・運用されているドメイン名の利用については、現行規定では認められていないと解釈されています。しかし、ICP登録が承認済みで、かつ運用開始済みのドメイン名に対しては、国内のレジストラに移す必要があるとの指示が出ている様子は無く、この運用は新たなICP登録の手続きのみが対象になっていると見られます。海外のレジストラで取得・運用されているドメインについては、WhoisのRegistrant情報と企業名との一致を条件に、ICP登録申請元の企業が発行する宣誓書、Whois情報のコピーへ公章を押印させた書面等を提出させるなどにより、その制限を緩和させることを求めます。
  3. 例えばwww.intel.com、www.nike.comのような大規模のサイトの場合、グローバルで一意のドメインを用いています。その際、中国からのアクセスの場合にはGSLBによって中国国内のサーバもしくはCDN等から配信されることがあります(前述の2サイトの具体的なケースではありません)。しかし、現状のICP登録制度では、既に海外で取得・運用しているgTLDを使った申請を行うことは出来ません(既に運用中のドメイン名とみなされるため)。そのため、例えば欧米向けにexample.comで配信していたコンテンツを、中国にサーバを用意して中国向けに配信しようとするとき(もちろん、ICP登録を行うことができる主体が中国にある前提で)、異なるドメイン名での運用を迫られるケースもあります。もちろん現場での回避策はいくつか存在していますが、現実的にユーザ企業が自身で対応することは難しい状況です。これらを回避するためには、既に運用中のドメイン名であっても、このような事情の場合には適切にICP登録の申請を受け付ける手段を用意することが望ましいと考えられます。

上述のことは、私たちが日常的に中国国内でWebサイトの運用をお預かりするケースにおいて直面する問題の一部です。中国のICP登録の制度と運用は刻々と変化しており、1年前にはOKであったことが今では受けられないこともあります。また、この事業者ではOKだったことが他社ではNG、というケースもあり、一つのケースを聞いただけで全てがそうなっていると判断してはいけない場面にも遭遇します。そのため、全ての課題について網羅出来ているとは全く思いませんが、少なくともICP登録の制度が出来た時には「1つのWebサイトは1つのIPアドレス」であったのだろう名残りが、大規模なWebサイトを運営するケースが出ている今、課題として浮き彫りになりつつあります。気づくことがあれば、今後もフォローアップしていくことにします。

中国クラウドサービス「鴻図雲」(ホンツーユン)

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