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中国法務の現場で感じる「実務経験」

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今週、ある弁護士の先生との電話会議がありました。私たちはクロスボーダーのプロジェクトに関与させていただく中で、弁護士など専門家との共同作業も多くなります。私が信頼しているある一人の弁護士の先生は、質問に対してメールでの説明だけでは終わらせず、5分から10分だけでも必ずフォローの電話会議をセットされます。

こと、中国の案件では、中国の法令という存在は大変厄介です。日本では、法令で違法とされていることはしないということは当たり前であると企業活動の中で考えられています。しかし中国は、法律ではダメだと書いてあったとしても、それをどう解釈して運用するかは、その時々、現場の窓口の判断によってかなり広く取り扱われます。きっとこのような話を聞かれる方もいるでしょう。

一例をあげると、商用暗号管理条例と呼ばれる制度があります。簡単に言えば「通信やデータを暗号化する製品を販売・使用するときには、その内容を届出よ。」というものです。外国企業向けには「国外の組織及び個人による中国での暗号製品使用管理弁法」という規定もあり、日本企業などは一時期大変律儀にこの手続きを守り、ラップトップにハードディスクの暗号化ソフトを使っているという企業は、丁寧に全て一台ずつ申請されていました。ただ、突然この件で捜査されて摘発されたという事例は、少なくともこの8年中国に関わる仕事をしてきて一件も見たことがありません。このiemoto BLOGも中国から読めますから具体的には言いませんが、何のための法令であるかは理解していただけるでしょう。

今回ある事案の調査で、法令の解釈と運用について確認が必要になり、中国国内の弁護士から4つの異なる窓口に電話していただき実務上の取り扱いを確認しました。法令上はできないように読み取ることもできる内容であるが、摘発された事例はなく、かつ企業のプレスリリースによって類似ケースの実施が公表されている事例もあるというものです。これは「実務上の運用」を確認するしかないケースです。結果、窓口の答えは興味深く、1つの窓口は「できる」。2つの窓口は「できない」。1つの窓口は「そう説明されたらできないと答える」というもの。さぁ、こうなると日本企業は迷います。法令上からはできないと読み取ることもできるため、弁護士の先生も、明確に「できる」とは書けません。

そこで、冒頭のとおり電話です。絶対に「できます」とは口頭でも説明されません。しかし「届出の仕方ですね。」という会話になります。会話の骨子はこれだけ。ここからは我々の責任による判断です。弁護士の先生も色々なタイプの方がいらっしゃいます。法令に書いてある通りの回答しかないことをダメだとは言いませんが、そこは中国。どうしても「どれだけ修羅場を経験したか」の差がでます。法令は自ら読めるわけですし、その運用についても窓口に自ら匿名で電話で聞くこともできます。しかしクライアントは、それをどう解釈したらいいのか、という現場感を求めているのです。そうであれば弁護士ではなくコンサルタントの仕事でしょう、というご意見も読者諸兄の中からは頂きそうですが、ある面で確かにそのとおりです。ただ、「中国」という空気を読むために、私と弁護士の先生が感じる空気のニオイが同じであるのか違うのかを確認しているのです。

空気を読む。共同作業の相手との信頼感を築く大切な要素です。

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